1,000を超える新規事業創造を乗り越えた男が説く、事業立ち上げお悩み解決策 vol.2

 
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vol.2 事業立ち上げ時に伝えたい、ビジネスモデルの意外な落とし穴

3月某日、ZEPPELIN CEO 鳥越康平により、新規事業の生みの苦しみ・悩みを、等身大で語り合うイベントが行われた。参加者と積極的にディスカッションしたこのイベントには、新規事業創造における苦悩が多く寄せられた。

クライアントワークとしては1,000を越える「新規事業創造」をディレクションしてきた経験、そして会社を設立して14年の間に自らが乗り越えた失敗から、鳥越康平がイベントでのディスカッションに加筆してお答えする。

 
 

 
 

FAQ 2

 新規事業を続けるにあたり、あくまで開発に邁進するか、キャッシュ獲得のために受託を並行してやるか、事業上の岐路に立たされています。

 具体的には、レガシーな業界で、それまで手間がかかっていた工程を、ネットで完結できる画期的なITサービスを作り、従来の市場価格の半額程度でサービスしたところ、売上は好調でした。しかし再現性がなく将来的に広がりが期待できないため、サブスクリプション型の安定性の高いサービスに変えることになり、法人向けにシステムをパッケージにする方向に切り替えました。

 しかし、法人向けにするにあたり、価格をその業界の通常の価格帯に戻したところ、やはり急激に販売数が低下し、赤字急転の中で開発を続けています。当然ながら、キャッシュの流れをよくするために、マーケティングはコンサルの受託、エンジニアは開発の受託を受けるべきという話も出てきました。

 幸いなことに優秀なエンジニアの採用には成功していますが、このまま開発に集中して突き抜けたいという思いもあります。

 
 
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鳥越

まず、エンジニアリングの受託は、難易度が非常に高いと思います。テスト環境やクオリティアップ、ローンチ後の運用を含めたら、そこだけでもプロがひしめき合っている。とくにアプリやソフトウェアの業界の難易度はすごく上がっています。

どれだけ優秀なエンジニアがいようと、そこに今から参入するのは新規事業にとってもかなりの負担になるし、優秀なエンジニアほど辞めていくことも考えられます。優秀なエンジニアが辞めてしまうと元も子もないですよね。

それに、受託は一度受けたらやめられない。最悪のケースを想定すると、契約次第では多額の未入金が発生する場合もある。だから、受託はやめたほうがいいように思います。

期待するだけの「市場規模」はあるか?

レガシーな業界に画期的なシステムを売るということですが、果たしてそれは、適切なビジネスモデルでしょうか?

実はこれまで相談を受けてきた中で、「いいビジネスモデルだ」となったケースはほとんどないんです。「それはまずくないですか?」というものばかり。そこでいちばん大きな問題となっているのは、みなさんが意識していそうでしていない「市場規模」です。ほとんどの場合、実は市場規模がすごく小さい事が多いんです。

狙っている市場規模がどれだけの大きさがあるのか、まずは精査したほうがいいと思います。

たとえば、レガシーな市場と新しい市場は、だいたい同じと思われがちですが、まったく違う場合が多い。その2つの市場規模を、もう一度算出する必要があるのではないでしょうか。取ろうとしている市場は、本当に同じなのか? 実はまったく違う動機で購入しようとしているのではないか? そういうふうにまず市場を明確にしたうえで、どちらの市場が大きいかを把握したほうがいい。

やはり市場が大きくないと、取れる数・金額が違います。

1年間の市場規模が100億円だとして、新規参入でその市場の2%を取れるとしたら、2億円です。そもそも2億円のビジネスを始めたかったのでしょうか? それだけの売上で良かったのでしょうか? これが、まず最初に市場規模の把握をやった方がいいという理由です。

この市場規模の桁が違うことがよくあるんです。最低でも数千億から数兆円の市場じゃないとダメだし、もっと規模が見込めるのが理想。

なぜかというと、結局いつ始めても、資金力の大きなメーカーがグローバルにソフトウェアサービスで参入してきて、あっという間に奪われていってしまう。それは、キャッシュや体力の差があるので仕方のないことです。だから最初は、できるだけ市場規模の大きいところを狙いましょうというのがセオリー。これは意外とみなさんが見落としていることではないでしょうか。

シェアを奪うためには、
市場を明確に把握する必要がある

 
 
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市場の考え方について、説明しておきます。人間はさまざまなシーンでお金を払うタイミングがありますよね。そのタイミングごとの市場で考えるんです。

例えばBtoCのマーケットでよく言われる「SNS市場」について考えてみましょう。SNS市場とまるごとくくると、それなりに大きい市場に思えますが、その中にはいくつも別の市場がある。

例えば、広告を出すやり方もあれば、インフルエンサーにお金を払ってマーケティングをするやり方もある。それはまったく違う市場ですよね。なぜなら、そこにはまったく違うニーズがあり、まったく違う人達が関わっていて、まったく違うタイミングでお金を払うからです。

自分の生活リズムに置き換えて考えてみると、理解しやすいと思います。

朝6時に起きて、夜12時に寝るとする。その間に自分がどんな購買をしているか考えてみてください。ランチ、飲み会、交通費、本の通販…。これが市場だと思うんです。意外と購買をしていない人も多いのではないでしょうか。

BtoCのマーケットは、みんながお金を使うところでシェアを奪わなきゃいけないわけです。その市場は、無限には増えません。だから、市場を明確にする必要があると思っています。

 
 

「課題神話」に陥っていないか

事業を始める時は、「社会にはこういう課題がある」、「こういう人が困っている」という「思い」から始まることが多いですよね。そういうロジックで社内で議論することも多いと思いますが、気をつけなければいけないのは、”課題を解決しよう”という「課題神話」。

その課題は、いったい何人ぐらいが感じているのでしょうか? そこはあまり考えられていないことが多いんです。

その課題を抱えている人が、たまたま自分の周囲にたくさんいるだけのことも多い。人間だから情が湧いて「この人達をなんとかしてあげたい」となるのは当然ですが、そうすると市場規模やビジネスの可能性よりも、課題解決の方に突き進んでしまう。

これがNPOなら問題ありません。でもビジネスとなるとどうでしょうか。思い描いているビジネスと整合性が取れているかというと、あまり取れていないケースが多いように思います。

課題はあくまでも最終的に解決されればいいのであって、あくまでもビジネスとして成立しなければならないというのが、本来の考えですよね。

なので、市場選びにしても、どういう指標で選ぶかは大事ですよね。「課題を解決してあげたい」という感情的な方を選ぶと潰れてしまうこともあるので、ロジックの中では「より市場の大きい方を選ぼう」とか「ビジネスを大きくするならこっちの市場だ」とか、冷静に市場規模を考える観点も必要だと思います。

 
 
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