エモーショナルな繋がりをデザインできなければ生き残れない

 
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なぜ事業づくりには顧客体験の構築が必要なのか?Minimal Viable Experience(必要最小限の体験価値)の重要性を説くZEPPELINのテクノロジストThomas Maciaszekにその背景を聞いた。

― 正直なところ、デザインは事業にどんな影響があるんでしょうか?

いきなりですね笑

経営上の理由、風評被害などによって利益が圧迫された場合、ほとんどの企業は、事業の内容そのものを修正することで対応します。ただ実は事業やサービスをどうやって届けるのか?ということに問題があることのほうが多い。

成功の根幹にあるのが実はデザインであると気づいている人がとても少ないという現状がいただいた質問の前提にはあるのではないでしょうか。

 

― しかし実際わかりにくいように思いますが。

本当はいたってシンプルなんですけどね。事業開発の永遠のテーマとは「少ないコストで利益を上げる」ということです。規模に関わらずどの企業もこのモデルに従っていると言えるでしょう。その中で、UXデザインがきわめて抽象的なものであって、効果=利益を推定しづらいということもあるでしょう。

でもデザインは利益に対して効果を上げていると言えます。そう確信しているからこそ、デザインがいかに大切であるかをロジカルに、わかりやすく説明するよう心がけていますがまだまだ伝えきれていないのでしょうね。

一般的に言っても、デザインの本質や真の必要性を完全に理解している人はまだまだ少ないです。

 

― では体験のデザインのような目に見えないサービスをどうやって伝えるんでしょうか?

UXデザインにおいては、クライアントによって、例えばユーザー数を増やしたいというご要望もあれば、ユーザーがどのような価値を求めているかを知りたいというご要望もあったり、様々です。

目的も違えば、時間をどれだけ投資できるかも、「美しいもの」を作るということに対する思い入れの度合いも異なります。正しい回答というものはありませんし、BtoBやBtoC、BtoBtoCなども関係ありません。

結局のところ、使ってもらえるUXデザインでなければ、利益に繋がりませんし、製品が存在する理由もないので、何を目標として時間と労力を費やしていくのかを考える必要があります。

これはつまり「ユーザーは何を求めているのか」という疑問に向きあい、どのようにエモーショナルな繋がりをつくるか、ということなのです。ユーザーに真摯に向き合い体験を構築することで初めて売上という結果が返ってくるのです。

ただお金をくださいという乞食のスタイルは市場では通用しません。路上パフォーマンスのように見知らぬ相手を喜ばせることによって初めて利益が得られるのです。そのパフォーマンスを最大化させるのがUXであり、エモーショナルな繋がりを作るということなんです。

―分かるようで分からないですね..。なぜエモーショナルな繋がりを作ると事業につながるんでしょうか?

例えば、ネスレ日本さんとご一緒させていただいたバリスタiのアプリ開発があるんですが、そこでは「家族」というエモーショナルな繋がりに着目し、家族とコーヒーを飲む時間を有意義にすることを目標としました。実家のお父さん/お母さんが毎日コーヒーを飲んでいるかどうか分かるからプレゼントとしてよく贈られるということがありました。

結果として発売から2ヶ月で出荷台数は10万台を越えたんですが常にユーザー目線に立ち、ユーザーがサービスや製品から価値享受できるデザインがしっかりと事業に貢献する良い例だと考えています。

 
 

―デザインの話をしていたらお金の話やさらには人間の心理の話になってきましたね。

まさにその通りです。デザインはあらゆるものに存在し、ツールや人間の体験の質をよりよくしているし、その結果利益に繋がるということです。

ついついデザインというと、絵を描くという具体的な間違いや、最近はデザイン思考という考え方の話を想像してしまいがちなのですが、ある種、ものづくりにおける姿勢に近いと思います。

ユーザー体験を注視し、ユーザーが製品やサービスから受け取る価値を大切にする。そのことを忘れてしまう方は多いですが、本来、ユーザーインターフェース(UI)にとどまらず、その先を行くユーザー体験、そして社会のことを考える姿勢。デザインの根幹はそこにあります。

ZEPPELINは、単なるイラストレーションをしているわけではなくて、サービスや製品ひとつひとつの「なぜ」をデザインし、人々が「なぜ」それを利用するのかまでデザインしています。それがエモーショナルな繋がりを生み出し、事業に社会に貢献するのです。

ちょっと私の方からもよろしいですか?

― なんでしょうか?

 今、お話したことは企業とユーザーの関係性の話でしたが、企業と従業員の関係性についても話を深めていっても良いでしょうか?

― 働くことに関してもデザインがつながっていると..?せっかくここまで理解できそうだったのに、またいきなりですね。 

まあそう言わず、せっかくなので付き合ってください笑

端的に言えば働くということについてもエモーショナルな繋がりや、働くという体験をデザインすることが意味を持つんです。

誰しも、自分の価値観や未来について思いを巡らすことはありますよね。でも勤め先についてはどうでしょう。会社の存在意義について考えることはありますか? その理由を自覚して初めて、職場での行動のひとつひとつや、会社が掲げる価値観が意味を持ってきます。会社と従業員を結ぶ、エモーショナルな繋がりが要るわけです。

 

― 会社員はそのようなことを求めて働いているんでしょうか?お金をもらえれば良いのではという気もします。

会社と従業員と言えば、従業員が雇用契約に基づいて会社から給料や休暇など有形の報酬を受け取るというのが基本的な関係性ですが、それだけでなく、キャリアデザインやスキル向上など成長の機会があることも大切です。

要は従業員が持つ課題と、会社が持つ課題がどれだけ一致しているかで、エモーショナルな繋がりが実現できるかどうかが決まってくるのです。

  

― うーん。でも今は副業の時代と言われているように仕事を掛け持ちするような時代です。その会社の理念に共感できることよりも、それぞれどれだけメリットを提供してくれるか?ということの方が大事なのではないでしょうか。

そういう時代だからこそ、自分たちの考えに共感してくれる人が大事なんです。例えば、パタゴニアは「持続可能なライフスタイルの中で自然や野生動物を守ること」というブランディングを展開していますが、ほとんどの従業員がこの理念に賛同しています。

 
 

実際にみんな自社製品を使っているんです。そして会社の理念を信じそれに寄り沿った生活をしているという点において、従業員たちは優れたインフルエンサーの役割も果たしていることになります。会社と従業員のエモーショナルな繋がりは、このように、単なる雇用という関係性を凌駕します。

―価値観を共有しているからこそ、従業員は自社の製品やサービスに愛着が持て、さらにはユーザーをインフルエンスする効果も得られるということですか?

アメリカでは、50%以上の人が仕事に不満を持っていると言われています。企業文化が肌に合わず、入社から18ヶ月もすれば退職する人も多い。就職を目指す若者を見ても、共感できる価値観や信念を持つ企業であれば、初任給が平均より7%低くてもそこに入社したいというデータもあります。

このような傾向を受け、多くの企業では資格や技能よりも、企業文化に合う人材の採用に取り組むようになっています。具体名は伏せますが、新人が入社から1週間以内に退社を申し出た場合、2000ドル(約20万円)の報酬を与える企業だってあるくらいです。

―え!辞めるのに報酬を与えるんですか?

なぜかというと、短期的に働こうと思っている人材を、企業側は求めていないからです。金銭を優先的に考えるのではなく、会社の価値観に賛同し長期的に働きたいと思っている人材が欲しいわけです。報酬を前にしても、「ここで働きたいので要りません」と言える者、つまりは企業文化、価値観、理念などを共有できる者こそが、晴れて従業員となります。そのほうが仕事に対する意欲もあるので、より生産的で満足度も高く、燃え尽きませんし、愛着を持って仕事に臨めるだけでなく、自己肯定感を持って働くことができます。

この数十年で多くの企業が倒産していますが、それは経営者が数字にこだわるあまり、価値観のような、より本質的な部分を軽視したことが背景にあると言えると思います。逆に、エモーショナルな繋がりの共有をベースとした環境を築いたことで、成功を収めている企業があります。やはり重要なのは価値観や理念など企業としての存在意義をいかに共有できるかであって、つまりはエモーショナルな繋がりをいかに構築できるかに尽きます。

そしてそれは従業員だけでなく、先ほどお話したユーザーとの関係性においても同様なのです。愛着を持ってもらえる体験を構築できるかどうか。それが事業成長に大きく繋がる部分ではないでしょうか。

 

 
Thomas Maciaszek, Business Development Director アメリカ ミシガンで育ち、国際基督教大学への語学留学を挟んだのち、弱冠20歳で卒業。その後、30社を超えるスタートアップ企業にコンサルタントとして携わり、特に知財権、IT、電話会社を専門領域としながらも多彩な分野での経験を培う。コンサルを離れてからは、複数のスタートアップでVPやCOOを歴任。

Thomas Maciaszek, Business Development Director
アメリカ ミシガンで育ち、国際基督教大学への語学留学を挟んだのち、弱冠20歳で卒業。その後、30社を超えるスタートアップ企業にコンサルタントとして携わり、特に知財権、IT、電話会社を専門領域としながらも多彩な分野での経験を培う。コンサルを離れてからは、複数のスタートアップでVPやCOOを歴任。

 
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